『遊びと学びをつなごう』を合言葉に、私たちが親としてできることを考えた『おうちSTEAMプログラム』。2021年の幕開けとともにスタートしたこのプログラムでは、対話と観察を大切にして3ヶ月間を過ごしました。
バックグラウンドも生活環境も異なる私たちは、ディスカッションやワークを重ねる中で、子どもたちの目の輝きと向き合い、私たちを形づくる価値観に思いをはせながら、『好奇心の点を打つ』プロセスを味わいました。
プログラム最終日には専門家の方をお招きして、私たちが3ヶ月間考えてきたこと・STEAMに親しんだ日常をシェアし合い、生活に溶け込むSTEAMを発見し・親しみ・味わいつくすためのヒントを探りました。
SKY Labo共同代表 ヤング吉原麻里子さんに、STEAM教育の実践家・研究者としての視点から『STEAMのAとはなにか』についてお話しいただきました。
STEAMの「A」には単にアートを超えた視座や世界観が入ること、そのためにはリベラルアーツ教育がはたす役割が重要なことを確認するきっかけとなりました。
次世代を担う子供たちにとって心躍る日常や環境をととのえるとは一体どのようなことなのか。それらを考え、実践し、語り合うことで、幼児期から児童・青年期へと続く教育のあり方を見つめ直すことにつながるのではないかと気づいた最終日のレポートです。
|息子の好きなものを深掘りする過程で、自分自身が子どもとどのように関わっていきたいか考えるきっかけに。(Shogo/2歳0ヶ月)
息子は朝もバナナ、夜もバナナ。次の日もバナナ。という程、大のバナナ好きです(笑)
そんな息子と何ができるだろう、と考えた時に『バナナのはなし』という絵本の読み聞かせや、バナナの絵を描く体験を思いつきました。
(出典:福音館書店 バナナのはなし)
通常だと『バナナを食べて満足』『バナナが好きな子』という、よくある一コマで終わると思うのですが、バナナの成長過程を絵本で確認してみたり、絵を一緒に描きながら、僕自身が息子とどのような関わりをしていきたいかを考えるきっかけになりました。
息子は先日2歳になり、既に興味はバナナ以外のものにうつっていますが(笑)興味関心がうつる瞬間も見守り、大切にしたい。
日々忙しくしていると片手間で息子と過ごしてしまいがちで、褒めるときも『すごいね』『天才だね』を多用していましたが、今は見逃したときは「もう一度やってみて」と正直に伝え、息子が伝えようとしていることを言葉にしたり、僕の感想や感情を具体的に伝えるように意識しています。
|子どもは自分で遊び方をイメージしていて、大人が思うよりももっと明確なデザインのアイデアを持っている。(Erica/4歳・1歳8ヶ月)
息子が最近「1と1を混ぜたらどうなるの?」など数字の質問をしてくることが増えたので、ビッグサイズのサイコロを工作し、画像シェアサイトのピンタレストを参考に、グラフや確率の要素を取り入れた『さんすうのアクティビティ』を考えました。
いたずら好きな1歳の娘も一緒に楽しめる、秘密基地づくりや異なる素材でテクスチャーを楽しむ絵の具遊び、野菜作りなどの体験も複数組み合わせて日々過ごしました。
Ericaさん考案の「さんすうのアクティビティ」
子どもたちと物作りをする時、デザインの段階から一緒に行うことが大切なのだなと思いました。
私の場合、「難しそうなところはやってあげて、簡単なところだけ残してあげよう」と思いがちでした。しかし今回の取り組みを通して、子どもは自分でデザインのアイデアを持っていて、時には、子どもならではの発想を形にするサポートを行うことも大切なのだと気づかされました。
そうすることで、子どもは自由な想像力で大人が考えもしないことを表現してくれるからです。
今回の秘密基地づくりに関しても、作る段階から子どもが遊び方をイメージしていて、明確に「自分はこうしたい」と伝えてくれました。自分が伝えたアイデアを実現できると、子どもはとても喜びます。
なかなか外出ができない日々ですが、子どもたちと楽しい体験を考えて過ごすことで、より豊かな時間となっています。
|思いがけない目の不調により、工作グッズを娘が自由に扱える環境や見守るスタンスの大切さなど、大きな発見と気づきがあった。(Aya/4歳8ヶ月)
今までは絵の具など「汚されたら困るな」ということで、なるべく手の届かないところ置いてみたり、図鑑なども棚の上に置いていたのですが、今回私の目の不調があり、工作グッズを全て手の届く場所へ配置して、娘が自分で好きなように使える環境をつくりました。
細かい作業などを一緒に行うというよりも、娘の興味関心があるものを見守るようなスタンスで過ごしました。
思いがけない目の不調がきっかけで、見守るというスタンスで全て本人にやらせてみることの大切さを実感しました。
今まではサポートのつもりで口出ししてみることもあったのですが、今回娘の興味関心を見守る中で「こんなことが自分でできるんだな」と知ることができました。
工作グッズを手に取れる場所にまとめたことで、失敗をしながら『やってみよう』の気持ちが育ったと思います。
また、今まではお絵描きや絵の具遊びが多かったのですが、今回このプログラムに参加したことで『やってみよう』がアート以外にも広がり、STEMの要素を取り入れてみようという意識が高まったことが大きな変化でした。
これからも身の回りの自然や、生活の中での発見・気づきを大切にしていきたいです。
|STEAMのAにはアートやデザインを超えて「人のためにSTEMを役立てたい」という視座や「STEMを使って世界をもっと優しいものにしたい」といった世界観を育むための教育が含まれている。(ヤング吉原麻里子さん)
”どういう価値観で子供を育てていきたいか”を一緒に考える仲間を集めて、共有や深掘りをしながらそれぞれの子供にあった探求の体験を作っていこう!という活動は、素晴らしいと思います。
子供たちが学んでいく上で何より大切なのは、お子さん自身が「わたし・ぼくの中にはなにか素晴らしい可能性があるんだ」と信じれることではないでしょうか。
金子みすずさんの詩にあるように、人それぞれ違ったよさがある。個々の可能性を一緒に信じて伸ばす手伝いをすることが、親や教育者の役割なのでしょう。
「自分にはできるぞ」というセルフエフィカシー(自己効力感)がないと、たとえ最新式の機材を揃えたメーカースペースに行っても、お子さんが創造的な発想をすることは難しいでしょう。
その意味で、パパとママが子供の可能性をゆるぎなく信じること、そして耳を傾けて寄り添うことがSTEAM人材育成のスタートだろうと思います。本日は、参加者のみなさまがお子さまの感じ方や視点をとても大切にして、肯定的な環境づくりを工夫されているのが素晴らしいなと思いました。
ヤング吉原麻里子氏
日本でも「STEAM」という言葉を耳にする機会が増えてきました。多くの場合「STEAMのAはアート」と理解されています。
「Aはアートやデザインを融合させることだ」という解釈もあります。
でもスカイラボのパートナー木島里江さんと一緒に、シリコンバレーで本当に素晴らしい活躍をする人々に会って話をするうちに、彼らのテクノロジーを支えるのは芸術性や創造性だけでないと考えるようになりました。
私たちは、STEAMのAにはアートやデザインを超えて「人のためにSTEMを役立てたい」という視座や「STEMを使って世界をもっと優しいものにしたい」といったビジョン(世界観)が含まれると考えています。
STEMの最先端で活躍するSTEAM人材の特徴は彼らが、人間を大切にしたい、人間であることを深く考えたいというヒューマニストであることです。今日はそのことを是非お伝えしたくて参加させていただきました。
これからの時代、子供たちにはテクノロジーやサイエンスを理解し使いこなすための知識やスキルが求められるでしょう。
多くのSTEM人材が社会で必要とされ、その育成がますます重要になっていきます。
その第一歩として、まずは今回のようにパパやママと一緒に S(サイエンス)T(テクノロジー)E(エンジニアリング)M(数学)の要素に触れて「STEMって楽しい!」とワクワク感をもってもらうことが大事ですよね。
「おうちSTEAM」のような活動に参加されることは、具体的な一歩として素晴らしいお取り組みだと思います。その一方で、エンパシーや感性を育てる環境を整えることが何より重要であることを強調したいと思います。
エンパシーというのは、相手の境遇に身を置いてその人の気持ちや感じ方に寄り添う力をさします。エンパシーが育っていないと、どんなに高いSTEMの専門性を身につけていても、これからの社会が本当に必要としている人材にはならないと思うからです。
そのためにはまず「人間好き人間」に育てることが肝心だろうと思っています(笑)。
その意味でも、STEAMの『A』には芸術やデザインだけではなく、哲学、文学、歴史学、倫理学、心理学…といった人間とは何かを探求するために生まれた領域(リベラルアーツ)が広く含まれるというのが、私たちの主張です。
いろんな考え方に触れて柔軟性を育んで、美しいもの・面白いものをみて感性を磨いて、本の主人公に寄り添うエンパシーを身につけて、歴史を紐解いて想像する力を身につけていく中で、STEAM人材としての核の部分が出来上がっていくのではないかと考えています。それこそがSTEAMの「A」なのです。
「人のために役に立ちたいから」「今ある社会をもっと優しい社会にしたいから」という視座を育む手伝いをするーそれがSTEAM教育が目指すべきところと思っています。
これからもみなさんが「おうちSTEAM」なさる時に、Aに何が入るのかを家族でいっぱい話し合って、日々の対話に盛り込んでいくことがまずは大事なのかなと思います。